逆算して理解する厚生年金保険の保険料の仕組み

pension book 厚生年金保険
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厚生年金保険の標準報酬月額の上限が2020年9月より改定となりました。前回の上限改定が2000年10月ですので約20年ぶりとなります(尚、下限の改定は2016年10月が最近の改定です)。今回の改定で影響があるのは報酬額(月額)635,000円以上の人たちということで、対象の人が限定的なためか、20年ぶりでも、あまり話題にはなっていないですね。
20年ぶりの標準報酬月額の上限改定を記念(?)して、今回はせっかくの機会なので、厚生年金保険の保険料の仕組みについて、ご説明します。あなたが今、給料から引かれている保険料額から逆算して理解していきますので、給与明細をご用意ください。
※2020年9月以降の標準報酬月額の上限改定後の内容となります。

社労士試験で狙われそうですねー。
例えば、択一式向け、正誤の判断をしてください。
Quetion:2020年9月に厚生年金保険の標準報酬月額の上限が改定され最高等級が第32級となった。標準報酬月額の改定は2000年10月以来のおよそ20年ぶりである。
Answer:誤り
☞二番目の文の最初が「標準報酬月額の上限の改定は」となっていれば正しいが、単に改定だと下限の改定の2016年10月以来、およそ4年ぶりなので、誤りである(これが本当に出たら性格悪い人が作った問題ですね)。

給与明細の控除項目「厚生年金保険」から逆算

あなたの給与明細の控除項目「厚生年金保険」の金額を選択して「計算する」ボタンを押してください。
※厚生年金基金に加入しておらず、4月‐6月にいずれも通常の通り勤務して報酬を受け、7月以降も勤務している一般的な会社員を前提にしています。

金額選択(保険料負担額)
÷


あなたの標準報酬月額は
です。

等級を表示します。

厚生年金保険料の控除額を「0.0915」で割っているのは、厚生年金保険料の率が9.15%だということです。詳細にいうと現在の厚生年金保険料の率は18.3%で、会社と被保険者(会社員)で折半(半分ずつ負担)となっているので、18.3%の半分で9.15%となっています。

厚生年金保険の保険料率の被保険者(会社員)負担分は9.15%

上記で額が選択できるようになっていることからもわかる通り、2020年9月現在、厚生年金の保険料(月額)は32種類しかありません。これはつまり、その計算の基礎となる報酬額(月額)が32種類だからです。報酬額(月額)の幅を32種類つくって(これを「等級」と呼ぶ)、そこに被保険者(会社員)の月の平均報酬額を当てはめます。具体的にいうと例えば月の平均報酬額が130,000円以上138,000円未満の人の報酬額(月額)は第7級で一律134,000円として、保険料を計算します。この第7級であれば134,000円のことを「標準報酬月額」といいます。標準報酬月額が32種類で、それに9.15%を掛けているので、保険料(月額)も32種類しかないのです。確認したほうが早いですね。下記が厚生年金保険の標準報酬月額表2020年9月~の最新版です。

【最新版2020年9月~】
厚生年金保険 標準報酬月額表
(日本年金機構HP掲載内容から作成)

等級標準報酬月額報酬月額保険料額(全額)
(=標準報酬月額
×18.3%)
保険料額(折半額)
(=標準報酬月額
×9.15%)
188,000円~93,000円未満16,104円8,052円
298,000円93,000円以上~101,000円未満17,934円8,967円
3104,000円101,000円以上~107,000円未満19,032円9,516円
4110,000円107,000円以上~114,000円未満20,130円10,065円
5118,000円114,000円以上~122,000円未満21,594円10,797円
6126,000円122,000円以上~130,000円未満23,058円11,529円
7134,000円130,000円以上~138,000円未満24,522円12,261円
8142,000円138,000円以上~146,000円未満25,986円12,993円
9150,000円146,000円以上~155,000円未満27,450円13,725円
10160,000円155,000円以上~165,000円未満29,280円14,640円
11170,000円165,000円以上~175,000円未満31,110円15,555円
12180,000円175,000円以上~185,000円未満32,940円16,470円
13190,000円185,000円以上~195,000円未満34,770円17,385円
14200,000円195,000円以上~210,000円未満36,600円18,300円
15220,000円210,000円以上~230,000円未満40,260円20,130円
16240,000円230,000円以上~250,000円未満43,920円21,960円
17260,000円250,000円以上~270,000円未満47,580円23,790円
18280,000円270,000円以上~290,000円未満51,240円25,620円
19300,000円290,000円以上~310,000円未満54,900円27,450円
20320,000円310,000円以上~330,000円未満58,560円29,280円
21340,000円330,000円以上~350,000円未満62,220円31,110円
22360,000円350,000円以上~370,000円未満65,880円32,940円
23380,000円370,000円以上~395,000円未満69,540円34,770円
24410,000円395,000円以上~425,000円未満75,030円37,515円
25440,000円425,000円以上~455,000円未満80,520円40,260円
26470,000円455,000円以上~485,000円未満86,010円43,005円
27500,000円485,000円以上~515,000円未満91,500円45,750円
28530,000円515,000円以上~545,000円未満96,990円48,495円
29560,000円545,000円以上~575,000円未満102,480円51,240円
30590,000円575,000円以上~605,000円未満107,970円53,985円
31620,000円605,000円以上~635,000円未満113,460円56,730円
32650,000円635,000円以上118,950円59,475円

単純に%を掛けて決まるということであれば報酬の額に応じで計算するので、報酬額も保険料も様々で複雑になります。事務処理上の観点と厚生年金の性格上の観点から、等級制度で32種類になっているのです。事務処理上の観点とは、種類が減ればそれだけ複雑にならないという意味です。それにより事務処理の正確化と簡略化が期待されます。厚生年金の性格上の観点とは、厚生年金は文字通り年金であることによるものです。つまり支払った保険料に応じて、将来支払われる年金の額が変わります。保険料が少なすぎると年金額が非常に少なくなり、逆に保険料を多くとり過ぎると支払う年金の額を大きくする必要が出てくる。その辺うまく設計できれば良いのですが、現在のところ保険料には下限・上限を設定して、月の平均報酬額が93,000円未満の人の報酬は一律88,000円(下限)、635,000円以上の人の報酬は一律650,000円(上限)として、保険料は計算されています。

保険料の計算の基礎となる報酬(月額)は被保険者(会社員)の月の平均報酬額に応じて、32種類の標準報酬月額から決められる。それに9.15%を掛けたものが被保険者(会社員)負担の保険料として通常、毎月の給料から天引きされる。

標準報酬月額を決める為の報酬額

保険料の計算の仕組みについて、ご理解いただいたと思いますが、そもそも標準報酬月額を決めるための平均の報酬月額の計算方法です。
実は状況によっていくつか、計算方法があるのですが、ここでは最も一般的なパターンである、厚生年金基金に加入しておらず、4月‐6月にいずれも通常の通り勤務して報酬を受け、7月以降も勤務している一般的な会社員の場合の計算方法です。

報酬とは

厚生年金保険で標準報酬月額を決める為の対象なる報酬について、日本年金機構のHPで以下の通り説明があります。

厚生年金保険で標準報酬月額の対象となる報酬は、次のいずれかを満たすものです。

(ア)被保険者が自己の労働の対償として受けるものであること。

(イ)事業所から経常的かつ実質的に受けるもので、被保険者の通常の生計にあてられるもの。

日本年金機構HPより

さらに報酬の例として、以下の通り説明があります。

厚生年金保険で標準報酬月額の対象となる報酬は、基本給のほか、能率給、奨励給、役付手当、職階手当、特別勤務手当、勤務地手当、物価手当、日直手当、宿直手当、家族手当、休職手当、通勤手当、住宅手当、別居手当、早出残業手当、継続支給する見舞金等、事業所から現金又は現物で支給されるものを指します。

なお、年4回以上支給される賞与についても標準報酬月額の対象となる報酬に含まれます。

日本年金機構HPより

なので、会社から支給されるものは、ほとんどが報酬にあたると考えて良いです。

計算対象となる報酬の支払月

報酬は月の平均を出すことになりますが、これは年間分を平均するわけではありません。最初にお話しした前提条件である「厚生年金基金に加入しておらず、4月‐6月にいずれも通常の通り勤務して報酬を受け、7月以降も勤務している一般的な会社員の場合」は、4月‐6月の3ヵ月の報酬の平均を使用します。具体的に説明すると例えば、2020年4月‐6月の報酬額を3で割った平均がその人の報酬月額となります。その額によって標準報酬月額が決定され、その標準報酬月額は2020年9月から2021年8月迄の各月に適用されます。これを毎年繰り返すので、次は2021年4月‐6月の平均報酬月額によって決定された標準報酬月額が2021年9月から2022年8月迄の各月に適用されます。すなわち、通常は9月から8月までの保険料は一定です。月の給料(報酬)によって変動することはありません。

通常の標準報酬月額は4月‐6月の平均報酬月額で決まる。

まとめ

以上が、給与明細の金額から逆算して理解する厚生年金保険の保険料の仕組みでした。厚生年金保険の保険料は過去、旧三公社(JR、JT、NTT)が違ったり、坑内員・船員も違ったり、そもそも現在の率迄、段階的に引き上げ途中であったり、意外と複雑でした。しかし、現在は18.3%(1,000分の183。被保険者(会社員)負担分は半分なので9.15%)で一つとなってシンプルになったので、理解しやすいと思います。
最後迄、お読みいただき、ありがとうございました!

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